Ordinary346副音声的なもの①

  現状様々なアレが山積していて原稿地獄となっており、かつ三月といえば日系企業サラリーマン死の月間ということもあり、現実逃避にこれを書いている。原稿地獄の成果についてはいずれどこかでお知らせできるといいなぁ、なんて思っているがそれはまた別の機会に。ぼく自身が書かなきゃ原稿は一文字も進まないというのは分かりきったことでしかないので、あとはとにかくやるっきゃない。

 『Ordinary346』という二次創作シリーズを足かけ二年ちょい書いており(そうした二年と少々の歳月において、既刊三巻と総集編一冊とTwitter掲載用短編一本しか出てないのか、ちゃんとしろ、と言われれば返す言葉もないのだが)、今回はそのコメンタリ的なやつになる。そのため既読者向けの内容になる。

 ※ちなみにTwitter掲載用短編はこちら(↓)。

 さてさて、既刊三巻に対して頂いた感想をエゴサしていると「あれ? 作中で明記したはずの事実関係が……伝わっていない……?(川島さんは外務省職員ではなくCIA工作員の私立高教師の役柄なのだが……本文中で何カ所も繰り返し明記したはずよ俺は……)」とかショックを受けることもままあり、ひとえにそれはぼくの筆力が蟻のクソレベル以下であることが原因なのだが、それはそれ、これはこれ、エスピオナージとか普段読んでないとやっぱ少々不案内ではあるのかなぁ、なんて思うところは正直なところあるわけで、本文を書いていた当時のことなどを思い起こしつつ諸々解説できたらいいなと思う次第。ぼくは自分の本の巻末にあとがきを書かないので(恥ずかしいから)、その代わりくらいに思っていただければ幸いだ。

 『Ordinary346』最終話「清しこの夜」について。いきなり最終話からはじめよう、というアイディア自体がまずあって、じゃあどんな最終回にしようかと考えつつ、プロット一切無しで書きはじめたら偶然に偶然が重なって上手くいった回。頭からケツまで一発書き。いま思うとまことに恐ろしい……。で、本編は川島さんが楓さんの最期を看取るところからはじまる。暗闘の幕引きから物語がはじまるところ、雪に覆われた東京のランドスケープからはじまるところ、また暗闘のキーパーソンであった人物がひとしれず消されるところからはじまるところは、髙村薫『リヴィエラを撃て』冒頭のオマージュに相違ない。

 エゴサしていると「大藪春彦オマージュ?」とかよく言われている気がするが、そもそも大藪作品は『非情の女豹』しか読んだことがない。大藪作品っぽさがどこからか漂うのだとしたら、それは銃火器監修のHK15氏(彼は大藪作品の大ファンである)の色が出ているか、もしくは菊地秀行氏の『魔界行』が大大大好きなぼくの色が出ているか、どちらかが原因であると推察される。ちなみに、第一話「辺獄より」のホテル地下〈ブティック〉での固有名詞モリモリ武器選別シーンおよびコテージ襲撃シーンの標的視点描写は『魔界行』リスペクト特盛り(にしたつもり)の箇所である。「ジョン・ウィック?」とか言われたりもしたが、正確には『魔界行』をベースに『ジョン・ウィック』をフレーバー程度に足し込んだような塩梅だ。上手くいっていたかどうかはぼくにはわからないので、どうか皆様でご判断を。またダンテの『神曲』を引いたのは完全なる髙村薫『照柿』オマージュだ。最初は単なる思いつきだったのだが、いざ引いてみると作中の筋にこれ以上なくピタっとハマって驚いた。そうした普遍性というか懐の深さというのは、やっぱり名作古典が名作古典たる所以なのだなあと妙な感慨に耽ったりしたものだった(そういえば、感想いただいた方の中で『神曲』を「かみきょく」って読んじゃったと言ってた方、冗談であるとはわかりつつも、もうちょい教養とかを大事にして生きた方がより良い人生になるかと思われると、老婆心ながらそんなふうに思った次第)。

 で、最終話のド頭で、日本政府諜報員・コードネーム〈女優(アクトレス)〉こと高垣楓さんがいきなり死ぬ。それも、ドテっ腹にホローポイント弾なんて物騒なものを喰らったせいで苦しみに苦しみ抜いて死ぬ。読んだ人は何となく推察できると思うけれど、楓さんを追い詰めて殺したのは元三合会少女兇手——〈黒猫(ヘイマオ)〉こと速水奏だ。それにしても楓さんを仕留めた彼女のやり口は非常に残忍かつ陰湿であり、いま読むとドン引きする。即死までは至らず、かといって救急車を呼んで助かるような創傷では済まさない、無様に血を垂れ流し、時間をかけて苦しんで死ぬよう計算された塩梅がとんでもなく陰湿だ。さすがは元香港ヤクザの考えること。愛する主(あるじ)を焼き殺された女の怨みはかくも深い……。めちゃくちゃこえー……。

 そんでもって、楓さんの元恋人であるCIA工作員の川島さんは「かつて愛した女が苦しんでいるに違いない……せや、九ミリパラで頭ブチ抜いて楽にしたろ」などと思って決死の覚悟で雑居ビルの屋上へ向かったわけだが、止せばいいのに〈亡霊(スプーク)〉こと美憂さんの名前を楓さんが出しちゃったもんだから、川島さんの感情が大暴発。結果として、楓さんは想像を絶する苦しみに悶えながら死ぬ。そんな楓さんの凄絶な最期を黙って見届ける選択をした川島さんが、哀悼の意を込めてカトリック式の十字を切りつつ何を思ったのかは、二次創作の作者であるぼく自身をもってしても端的な言語化が不可能だ(特に明言していないが作中の川島瑞樹はクリスチャンだ)。三角関係と得体の知れないデカい感情……くらいに捉えていただければ幸い。

 上記における一連のシーンにおいて、弾を喰らった際の苦痛(痛み、苦しみ、絶望、死への恐れ)みたいなものは、結構注意深く書いたつもりだ。月並みだけれど『レザボア・ドッグス』の流血描写とか、『許されざる者』で腹部を撃たれた人間が喚きながらのたうつシーンとか、ああいう質感に色濃い影響を受けて書いた記憶がほんのりある。

 一応説明しておくが、川島さんが所属する組織はCIAであり、CIAとはすなわちアメリカ中央情報局の略称だ。CIAはアメリカ合衆国の対外諜報機関である。対外諜報機関とは何なのかというと、国のために諸外国の情報を集める役割を負っているスパイ組織に他ならない。つまり川島さんはアメリカ合衆国のスパイである。だから川島さんのことを「外務省職員」と書いた感想をいただいたときは(感想をいただけることはメチャクチャありがたいものの)結構落ち込んだ。なぜ川島さんが暗闘の蚊帳の外において"監視者(ウォッチャー)"の役割を全うすることができたのか?=なぜ彼女は暗闘を生きのびることができたのか?=なぜ彼女だけが最終話においてただひとり速水奏と一対一で対話することを許されたのか? という最終話の根幹をなす結構重要な部分が、その方にはたぶん伝わっていないからである(というかそもそも外務省は鷺沢一家殺しに直接荷担した側であり川島さんとは無関係だ)。ははーん、さては「雰囲気」で読まれてるなー? ってなるとぼくとしても諸々書き方見直さなきゃならんな、みたいな気持ちになる。

 さておき、本文中で何の説明もなく〈赤坂〉という符丁を出したが、あれはアメリカ大使館の所在地が東京都港区赤坂にあることからくるものであり、〈赤坂〉=アメリカ大使館=CIAとそのまま読み替えて頂いて構わない。各国大使館というのは実際その国の対外諜報機関の前哨基地のようなものなので、とりあえず大使館の所在地名がそのまま符丁として出てきた場合は、イコールその国の諜報機関を指す隠語と捉えるとすんなり読める。なので、総集編書き下ろしEx.2「亡霊」で川島さんが言及していた〈麻布台〉はロシア連邦大使館である。何もこれは当シリーズオリジナルの設定というわけではなく、世の中全般におけるエスピオナージもの(とりわけリアルスパイもの)の定番だ。そういうわけで、本文中で斯様のごとくまどろっこしい書き方をしているので、川島さんの立ち位置がよくわからんかったぞ……という方がもしいらっしゃった場合(繰り返しになるがそうなっていた場合100%ぼくが悪い)、アメリカ合衆国政府の指令を受け、日本国内でのスパイ組織や企業間の内紛の動向を監視・記録し本国へ報告せよ、という任務を帯びているのが川島瑞樹(表の顔は女子高教師)という登場人物なのだ、とご理解いただければ幸いだ。

 で、あの雑居ビル屋上のシーンにおいて結構重要なことを書いたつもりで、それが何かというと、〈女優(アクトレス)〉をめぐる陰謀に携わった人間は、最終話冒頭時点において速水ら五人組と川島を除きほぼ全員が次から次へと破滅し、大変なことになった(具体的にどうなったのかは伏せている)、という事実である。つまりどういうことかというと……というのは、もうちょい想像の余地を残しておきたい。そこは四巻以降のお楽しみ(?)ということで。

(つづく)

 ※上述のシーン、消火器先生にファンアートいただいたのがメチャクチャ嬉しかった……(ファンフィクションのファンアートって何???)。その節は本当に有難うございました……引き続き頑張ります。